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Hideyasu Matsuura

AIボイスレコーダーの過信は危険

 先日、あるミーティングに参加したのだが、ふと机を見たら隣にいた参加者が机の上に、カード状のものを置いてあるのに気づいた。そのカード状のものには「PLAUD」と書いてあったのだが、その時は”これはなんだろうね?”と思った程度でやり過ごした。  それから数日してX(Twitter)を見ていたら、大手家電量販店がその「PLAUD」なるものをポストしていた。「あ、これこれ。あの時の」と思ってみてみると、このPLAUD NOTEという製品は、AI搭載のボイスレコーダーで、録音した内容をAIが自動で文字起こしや要約まで行ってくれるというものであった。ChatGPT連携ということなのでAIはChatGPTなのだろう。

AIで生成した架空のボイスレコーダーの画像

ところが。である。 先日のミーティングで隣にいた参加者は議事録作成担当で、そのPLAUD NOTEを使って作ったと思われる議事録を提出してきたのだが、内容を見て慌ててしまった。

 私もそのミーティングで発言したのであるが、発言の主旨とはかけ離れた内容になっていて、知らない人が見れば「この人は馬鹿なんじゃないか?」と取られてもおかしくないような発言になっていたのだ。即座に訂正要求を出したのだが、同時にAI過信は怖いと感じたのである。


 最近はAIの活用が様々な面で急速に進んでいて、AIを使わない人は取り残されるといった風潮すら感じさせられる。「シンギュラリティはすぐそこだ」と言い切る専門家もいる。ただ、AIにすべてを任せられるかと言えば、どう見てもそこまでは進化していないと感じる。現状ではAIを活用するにしても、人の監視は必須である。 ミーティングの議事録の件もよく見ると、下段に英語で”会議で結論が出ていないかアクションが不足しているので注意”というような警告文が残されていた。おそらく担当者はAIボイスレコーダーが吐き出してきたものをそのまま議事録として提出してきたのであろう。さほど重要ではない会議なので問題になることもないし、些末なことに手間をかけたくないのもわかるのだが、外部に公表するものは後々トラブルに発生する可能性もあるだけに慎重に対処すべきと言わざるを得ない。

PLAUD NOTEを使うなとまでは言わないが、最終的には人の眼でフォローしなければならないもので、能力の限界を踏まえて使うべきであり、丸投げのような使い方はすべきではないと思うのである。


 ASAのPOV(評価原論の基礎講座)を受講した際、米国人の講師がディクテーションという手法を使って極めて短時間で評価書を作成する手法を披露してくれた。 実査時に見た内容をボイスレコーダーに吹き込み、それを直ちに伝送して事務所のスタッフが評価書として仕上げるという手法である。おそらく、AI搭載のボイスレコーダーを使えば、オフィスのスタッフがいなくてもそれに近いことは可能になるだろう。 とはいえ、AIが作ったものをノーチェックで署名する評価人はいないだろうし、今のAIをが作ったものをそのまま成果品にするようであれば「あの人は杜撰な仕事をする人だ」という評判が立つに違いない。


 近頃、新しい技術として太陽光発電や電気自動車が急速な普及を見せているが、ここにきてその逆風が強くなってきていると感じる。その中には非科学的な反論も数多いが、確かにその通りだと思える意見もある。全体的には非科学的な反論の声が多く、押し戻されつつあるようにも感じる。 AIも早晩逆風が強まるだろう。特にAIは「仕事がなくなる」と危機感をあおるような見解が多数出ていたから火がいて炎上すれば太陽光や電気自動車以上かもしれない。

 実際X(Twitter)などでは、AIで生成した画像に対して激しい非難を浴びせるユーザーもいて、その兆候は出てきているのかなと感じることがある。


 AIで生成された画像を見ていると、我々の仕事でも注意しなければならないのではと感じさせる。評価においては実査を行うことが基本であるが、時折秘密保持を重視する依頼者の方から難色を示されることがあり、そうした場合には往々にして「我々で撮った写真を使うのはどうですか?」と提案される。今までこのような提案を受け入れたことはないが、妥協して受け入れてしまい、根拠に使った写真がAIで生成したフェイク画像だったら判断を誤るかもしれない。もちろん、評価書には実査をしたか否かについて宣誓書の中でも言及しなければならないので、直ちに破局的な責任を負わされる可能性は低いが、注意義務違反の誹りは間違いなく受けるであろう。

 

 ASAではフォレンジック(犯罪や事件の証拠を収集・分析して事実関係を明らかにする調査手法)についても知見があると、知り合いの大学教授から教えていただいたことがある。おそらく事業評価関係でデジタルの資料に改ざんなどの不正がないか(デジタルフォレンジック)等の話ではないかと考えられるので、ASAでも異なる専門分野の話だろうから、関係はないだろうと考えていた。しかし、最近のAI生成画像を見ているとひょっとしたらそうした考え方は改めた方がいいかもしれないと思うようになってきた。 デジタルフォレンジックが仕事の中心になることはないだろうが、知らないと足元をすくわれる必須の知識にはなってくるだろう。

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