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  • Hideyasu Matsuura

VOCのジレンマ

更新日:4 日前

 自宅の集合住宅が塗装工事の真っ最中で、施工場所によって時折シンナー臭がすることがあり、風通しの悪い場所に行くと目がチカチカすることもありました。先日、塗装作業をしている方に話を伺ったところ、最近は環境問題があって水性の塗料を使用しているものの、シンナーを全く使用しないわけにもいかないとのこと「しばらく申し訳ないです」とのことでした。  「シンナー」と呼ばれるものはVOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)の一種ですが、実査などでVOCを使う工場に行くと、VOCを使用する機械には換気装置が備えられ、換気装置の先には大掛かりな脱臭装置で無害化処理されるなど、VOCの取り扱いには相当コストをかけ、神経を使っていると痛感させられます。

一斗缶(イメージ) -VOCはこうした一斗缶に入れて流通するものも多い

 では、VOCとか一体何か。VOCは常温で容易に気化し、大気中に放出される有機化合物の総称です。一般的なVOCには、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド、ベンゼンなどが含まれます。これらは塗料、接着剤、溶剤、洗浄剤、建材などに含まれており、日常生活や工業プロセスで広く使用されています。


環境や人体への悪影響

  1. 環境への影響: VOCは大気中で他の物質と反応して、地上付近のオゾンを生成し、光化学スモッグの原因となります。オゾン層の上層では有害紫外線を遮る役割を果たしますが、地上付近では植物にダメージを与え、生態系のバランスを崩す可能性があります。また、オゾンは呼吸器系にも悪影響を与えます。

  2. 人体への影響: VOCは揮発性が高いため、呼吸器を通じて容易に体内に取り込まれ、短期的には目や喉の刺激、頭痛、めまい、吐き気などを引き起こします。長期的には、肝臓や腎臓の機能障害、神経系の影響、発がん性リスクが指摘されています。特にホルムアルデヒドやベンゼンなどは発がん性があるとされています。


規制と対策

各国では、VOCの排出を減らすための規制が行われています。以下は代表的な規制例です。

  1. 日本: 日本では、2004年に改正された「大気汚染防止法」に基づき、特定VOCの大気中への排出量を削減する規制が導入されました。これにより、事業者にはVOC排出の抑制策(密閉システムの導入や排出ガス処理装置の設置など)が義務付けられています。また、家庭や建築材料で使用される化学物質については、ホルムアルデヒドなどの規制が進められており、シックハウス症候群の防止も目指されています。

  2. 欧州連合(EU): EUでは、VOC含有製品に関する指令(2004/42/EC)が定められており、塗料や車両修理用コーティングなどの製品に含まれるVOCの量が厳しく制限されています。また、REACH規制(化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則)によって、特定の有害化学物質の使用や輸入が制限されています。

  3. アメリカ: アメリカでは、環境保護庁(EPA)が「クリーンエア法」に基づいてVOCの排出を規制しています。特に自動車や産業からの排出に厳しい規制が設けられており、各州も独自の規制を設けています。例えば、カリフォルニア州は、VOCの排出量削減において最も厳しい基準を設けており、特に塗料や溶剤の使用に対する規制が厳しいです。


過去には住宅建材の問題も

 一時期、住宅建材のホルムアルデヒドが「シックハウス」の原因と大きくクローズアップされ、当時建材メーカーや流通に携わっていらした方が頭を抱えているのを見たことがありますが、生産現場でなくても我々には身近な問題で、意外なところでは洋服ダンスの防虫剤の一部に使われているパラジクロロベンゼンなどもVOCのひとつです。  有害物質は全廃できればいいのですが、冒頭の塗装の例のように完全に他のものに代替できないことも多く、そうした場合は代替できるものは代替するなどして利用を減らし、どうしても使用しなければならない場合は極力管理された環境下で使用して、健康被害や大気汚染を最小に防ぐようにしなければなりません。

それでもVOCを使わなければならないジレンマ

 評価の場面でも、例えば油性インキを使うためVOCが含まれるグラビア印刷と、水性インキを使用するフレキソ印刷が比較されたりすることがあります。グラビア印刷は陰影や質感がはっきり出るため商品パッケージの印刷などに利用されます。フレキソ印刷は段ボールに印字されている文字などの印刷によく使われています。環境のことを考えれば華美な包装をやめ、簡易で環境にやさしい印刷を用いた包装材を使えばいいのですが、いざ店頭に商品として並ぶとやはりきれいなパッケージの物を選んでしまいがちで、メーカーも売り上げを考えるとやめられず、グラビア印刷でなければダメというジレンマがあったりします。

 ただ、商用に使われる機械設備は収益を上げることも大前提になりますから、「環境に良くない」という理由で一刀両断にマイナス評価という訳にもいきません。その点は我々にとってもジレンマであったりします。


 理想と現実のはざまでいろいろと思案しなければならないこともしばしばありますが、理想にも現実にも偏りすぎず、筋が通るロジックで考えていく必要があるのかなと思っています。

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