先週末、事業再生支援協会の定例会があり、参加してきました。
COVID-19の混乱も収まり、正常化して1年が経ちましたが、このところマテリアル不足が深刻化しています。工業生産に必要な資源や食料も安定供給に不安のある品目がありますし、それ以上に深刻なのが国内の働き手の不足です。また、人口減少もこの先さらに加速すると予測されていて、2025年以降に深刻化すると言われています。
COVID-19においては、雇用の確保や企業倒産の防止のため企業支援に多額の公的資金が投入されました。いわゆるゼロゼロ融資がその代表で、この施策によって民間の金融機関の不良債権はほとんどなくなり、その代わりに政府系の金融機関や都道府県の信用保証協会に不良債権が集中するという現象が起こっているようです。
国もそれまで、雇用の受け皿でもある中小企業を保護してきましたが、労働力不足に直面していることや日本の国際競争力の低下を受けて、中小企業の保護から中堅企業の育成へと舵を切り始めているとのことです。
そこで新たに定義されたクラスタが「中堅企業者」であり、従業員数2,000人超の会社・個人の「大企業」、サービス業で資本金5千万円以下従業員数100人以下、製造業で資本金3億円以下、従業員300人以下などの「中小企業」び中間にあたる企業群を「中堅企業」と定義づけており、約9,000の企業がこれに該当するとされています。
そして、中堅企業元年 『3つの対策』の創設として①賃上げ原資確保のための省力化等の大規模成長投資支援の創設②賃上げ促進税制の中堅企業枠の創設③経営力の高い中堅企業等に経営資源を集約化し賃上げに繋げるグループ化税制の創設といった施策を掲げています。
このうち経営資源を集約化については、M&Aによるグループ化を前提としています。
国を挙げてM&Aを推進しているのですが、M&Aの現場ではその信頼を揺るがすような事態が起きています。
ここ数年、テレビCMなどでもM&A仲介を行う会社を目にするようになりました。
機械設備評価の仕事をしていますと、M&A業者の方をお目にかかることもあるのですが、大抵は売案件の紹介を頼まれるだけで評価のことなど全く聞かれることはなく、「一体この人たちはどのような値付けをしているのだろうか」と思うのが正直なところです。
漏れ聞こえる話では、売手買手双方から仲介の依頼を受けているとのことで、規制がある程度整備されている宅建業界でも「両手取引」については厳しい意見があるのに、縛りの全くないM&A仲介で「両手取引」が行われているとなると、利益相反行為の可能性は十分に考えられることです。
実際に、悪質な「M&A」による被害は出ているとのことです。
「M&A」名目で中小企業に入り込みカネを巻き上げ…悪質投資会社の手口とは 全国で相次ぐ被害 2024年5月3日 東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/324892
M&Aの場合、株式の譲渡という形式で行われることが多く、債券や債務など外見では把握しづらい価値やリスクもあります。
悪質な買手の場合、現金、預金、有価証券といった流動資産を引き出したうえ、元の経営者の連帯保証契約を悪用して多額の借り入れを行ったり、現金や預金、有価証券を引き出して行方をくらまし、元の経営者に多額の負債を負わせるといったことをやっており、刑事事件として立証しようにも警察の民事不介入の方針や、代金不払いで詐欺性が疑われても債務不履行の問題にされてしまうなど、看過できない社会的不公正が行われているようです。
M&A仲介業者の団体では業界の自主規制ルールを設けて対応しはじめましたが、国はM&Aの規制には消極的だと言います。
M&Aを推進しておきながら、その弊害には全く対処しようとしない国の姿勢は太陽光発電事業に対するものと全く同じで、今後さらに大きな社会問題にならないか、大変気がかりなところです。 以前M&Aで有名な企業経営者の講演を聞いたのですが、海外ではM&Aの仲介という職能はなく、買手又は売手にアドバイザーやブレーンとして支援する形態が通常で、日本のM&A市場が特殊というお話でした。
M&Aを悪用した企業の乗っ取り行為は本当の企業価値を破壊する行為で許されないことです。 売手・買手双方から取引額に対しパーセンテージで成功報酬を得るのは倫理面からいうと非常に危ういのですが、儲かってナンボで利益相反行為に寛容な日本のビジネスと規制に及び腰な行政といったメンツでは是正が難しそうです。
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