5月21日の日経新聞朝刊に「曲がる太陽電池」の普及を目指す組織が近く旗揚げするという記事が紹介されていた。
「曲がる太陽電池、官民150団体で組織 40年度目標策定へ」(日本経済新聞)
曲がるほど薄いペロブスカイト型太陽電池の普及に向け、積水化学工業など国内メーカーや経済産業省、東京都といった約150団体が近く協議会を立ち上げる。2040年度の電力構成を定める次期エネルギー基本計画に反映させるため、今夏にも同年度の導入量目標を策定する。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA16CRY0W4A510C2000000/
曲がる電池というのは、次世代の太陽電池として期待がかかるペロブスカイト型太陽電池である。この分野の開発競争では今のところ日本がリードを保っており、21世紀になって先端分野では今一つ存在感が薄らいでいる日本にとっては期待の新技術であると言える。
この4月からNHKで「新プロジェクトX」の放送が始まった。だいぶ前に問題を起こして終わってしまった番組であるが、今になってまた復活とは新味がないのではないかと思ったが、いざ放送が始まってみると何となく見てしまうものである。 先週18日にはバッテリー型の電気自動車(BEV)としては世界初の量産車となった日産自動車「リーフ」の開発物語が放映されていた。コストカッターとして来日し日本で手腕を振るい、その後楽器ケースに隠れて逃亡してしまったカルロスゴーン氏の無茶ぶりや、発火リスクの高いリチウム電池の壁もチームワークを発揮して見事に乗り越えたというストーリーで、物語としては面白いものだったが、その後の日本のEVの地位を思うとやるせない複雑な思いが残る話でもあった。 太陽光パネルに液晶パネル、蓄電池など、21世紀前半には日本企業がパイオニアとして世界をけん引してきた各分野が中国などのメーカーに後塵を拝するどころか追随すら許されないほどまでに引き離されてしまった現状がある。そうなるとペロブスカイトもまた同じ将来が待っているのではないかとの不安が頭をよぎるのである。
そのペロブスカイトであるが、スタート地点に立ったか立たないかの今ですら、中国勢がすでに優位という話すら聞く。 ペロブスカイト型太陽電池の使い道に対するアプローチは日本と中国で既に異なっているという。日本の場合、薄くて曲げ伸ばしができること、暗い場所でも発電が可能であるという特性を利用して今まで発電に使っていなかった小空間を発電に利用することを想定している。一方で、中国メーカーのアプローチは異なる。ペロブスカイト型太陽電池と現在主流となっているシリコン型太陽電池とでは、光エネルギーを電気エネルギーに変えることができる光の波長の違いを利用して、シリコン型太陽電池の上にペロブスカイト型太陽電池のシートを貼り付け、ペロブスカイト型電池でまず発電し、透過した光を今度はシリコン型太陽電池で発電に使うという、2層構造を志向しているのである。
どちらがよりマーケットに受け入れられやすいかと考えると、おそらく中国方式の2層発電の方が浸透しやすいのではないかと思われる。ソーラーパネルは電気を作るものであるが、使わない電気を作っても意味がない。電気を使うことを考えると、使える電気にする仕組みが必要である。電気製品で使うならパワーコンディショナーなどの設備がなくてはならない。中国メーカーの方式の場合は、既存の発電施設を活用してパネルの上にペロブスカイトのシートを貼付したり、パネルを交換することで簡単に導入できる。一方で日本の考えている方式の場合、新しいスペースに電池を設置することになるので、パワコンや配線のことも考えなくてはならない。例えば、窓ガラスでもパネルを貼り付ければ発電できるようになると言われているが、窓枠が電線まみれになるようでは使い勝手がいいとは言い難いだろう。そもそも電気というものは発火のリスクが高く、決して扱いやすいものではない。 少し考えただけで、見たくない未来が見えてしまうようにも思うのだが、その辺はこの組織が解決してくれるのだろうか。
もしかすると車のボディにパネルを貼ることができれば、BEVの航続距離を延ばすことはできるかもしれないし、その他の使い道もあるかもしれない。まだ、勝負は始まっていないのだから、違うアプローチもあるかもしれない。 「新プロジェクトX」の日産リーフの開発秘話も、最初は開発部門と量産化を担う生産技術部門の間でお互いの立場を主張して喧嘩が絶えなかったというが、ゴーン氏のきわめて困難な指示をうけて一つになっていったという。どうか、一つの目標に向かってあらゆる立場の人が力を合わせてほしいものであるが、評論家ばかりのこの時代、果たしてうまくいくだろうか。
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