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執筆者の写真Frontier Valuation

Fair valueとLiquidation Value in Place 設置済資産の清算価値

更新日:5月7日

American society of appraisers(ASA:米国鑑定士協会)の機械設備部門のWebサイトでは、評価で求められる価値の定義が掲載されている。 価値の定義については年を追うごとに少しづつ改訂されるので、時折チェックしておかなければならない。同時に意外と見落とされているものもあるので、熟読することも必要である。

Fair value

以前はなかった定義としてFair valueがある。


Fair Value

The price that would be received to sell an asset or paid to transfer a liability in an orderly transaction between market participants at the measurement date.

Source: Financial Accounting Standards Board Accounting Standards Codification Topic 820 (ASC 820)

ASCはFinancial Accounting Standards Board Accounting Standards Codification (財務会計基準審議会の会計基準成文化)の略であり、会計基準の世界の定義づけである。ASAなど評価の世界ではFair Market Value(公正市場価値)を用いるが、会計の世界ではFair Value(公正価値)である。両者はほぼほぼ一致するものであるのだが、同一ではないので、会計向けの評価で使用するためにこの定義が登場したと考えられる。

会計向けの評価の場合は基本的にFair Valueを選択することになる。ASC820では、an orderly transaction between market participants=「市場参加者間の秩序ある取引において」と規定されているので、清算価値に相当するような前提条件をおいた評価はできないと解することができる。但し、ASC820では市場参加者の観点から判定した最有効使用を前提に評価することを求めており、「誰が使っても収益を上げることができない」ような資産であれば、相当な機能的又は経済的退化の計上、さらには、買取業者への転売や、再資源化目的の売却を前提とした価値の評価をすべきケースもありうる。 日本国内では企業会計基準第 30 号「時価の算定に関する会計基準」が存在するが、資産を主とした対象にしており、非金融資産である機械設備の評価は海外の基準を準用せざるを得ない状況である。

少々心許ないが、国際間の比較可能性の要請が高まり、IVSのコンバージェンスが行われている現況を考慮すれば、概念的には大きく変わることはないものと考えられる。

Liquidation Value in Place

もう一つ、清算価値でもあまりなじみのない定義があった。 Liquidation Value in Place (現状設置下の清算価値)である。 公正市場価値には設置済みを前提としたものと非設置状態のものがある。機械設備は購入してすぐに使えるというものではない。評価で相手にするのは主として産業用の機械であり、製品を製造するためには設置、試運転、調整をして所望の品質のものを作れるようにする必要があるし、設置後も品質向上のため、製造機械には微調整や改造が加えられる。従って、設置済の資産の方が即戦力としての価値があり、評価額は高くなるのが一般的である。 そのため、設置済と非設置の資産は価値に違いがあり、公正価値には異なる定義が用意されている。 公正市場価値と同じように清算価値でも設置済みと非設置の概念があるという訳である。


Liquidation Value in Place

An opinion of the gross amount, expressed in terms of money that typically could be realized from a properly advertised transaction, with the seller being compelled to sell, as of a specific date, for a failed, non-operating facility, assuming that the entire facility is sold intact.


 日本語に訳してみると

 「破綻して操業停止した施設が、施設全体をそのまま売却されると仮定して、特定の日において、売却を強制された売り手が、適切に公示された取引で実現できるであろう、施設全体の金額で表示された総額についての意見。」

 ということになりそうである。


 清算価値の場合、実務的には限られた期間内に機械設備を売りさばくということになるので、通常清算価値は中古機械取引業者の仕入れ価格がめやすで、強制清算価値の場合は裁判所などの競売価格がめやすであると考えられている。  中古機械業者に買い取ってもらうことを考えると、占有改定によって手元(例えば工場内)に置いたまま中古機械業者に売却ということもできなくはないが、買取業者の側に立ってみれば売主に設置場所をロックアウトされてしまえば手も足も出せなくなってしまうので、一般的には業者が機械を引き取り自社の倉庫で保管するだろう。そう考えるとおのずから、非設置状態で成立する価値が清算価値を考えるうえでの基本となる。  しかしながら、たとえば経営破綻した会社の工場施設については、バルクセールの場合のように、スピードを優先してそのままの状態で一括で売りさばくスキームも十分に考えうる。そうした場合の清算価値については設置済みとして考える必要があるだろう。  設置済みの公正市場価値と違うのは売買が強制されるということであり、定められた期限内で確実に処分することが求められるので、その分ディスカウントが働くと考えられる。  疑問点もある。清算価値は通常清算価値と強制清算価値がある。通常清算価値はより適切な買主を探すために、ある程度時間的な有用が与えられる。一方、強制清算価値はスピード重視で、短い期間に売りさばくことを前提として成立する価値である。 Liquidation Value in Placeは通常清算と強制清算のどちらにも適用できるのだろうか。

 この辺は、しっかりと調べなくてはならないが、定義の内容からして通常清算価値と同じ概念を前提としているのではないかと考えられる。なぜなら、”realized from a properly advertised transaction”とされており、「適切に公示された取引」つまり短期間で早くではなく、公示あるいは広告という手続きを踏んだうえで実現できる金額と読み取れるから、強制清算の場合は対象にならない可能性がある。  役に立ちそうな概念ではあるが、なかなか使う場面としては難しいかもしれない。設置済みの場合は不動産との兼ね合いも出てくるだろう。単独で評価する場合ならいいかもしれないが、不動産鑑定と同時進行の場合には互いに矛盾が出ないか考慮する必要もあるだろう。    安易に使うと墓穴を掘るかもしれない。文言を吟味したり、まわりの評価士に教えてもらいながら、うまく使えるようにしたいところである。

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