米国鑑定士協会(ASA)の資格認定を取得するためには、基礎教育(POV)を受講しなければならない。POVは評価の理論的な基礎を教え、その基礎をもとに、頭がおかしくなりそうだと思うくらいに演習問題を解かされる。 機械の場合、不動産とは違って再生産は可能で、永続性はなくどこかで使えなくなるものという前提で考えるから、耐用年数というのが重要な要素である。コストアプローチで新規再調達コストから物理的な劣化を考える際には耐用年数と経過年数が重要なファクターのひとつとなる。また、マーケットアプローチにおいても耐用年数と経過年数はやはり大きな意味をもつ。製造後間もない中古品と、数十年経過した中古品で価格が異なるのは当然であろう。もっとも、機械の場合はアワーメーターで実使用時間が把握できる場合もあるし、自動車の場合もオドメーターで走行距離を把握でき、これらが価格を決める重要な要素になるのだが、そのような場合でも、「2年経過にしては過走行」「10年経過しているのに使用時間が少ない」といった見方がなされる。市場において他に類似品があればその価格比較をする際にも有用だからだ。 耐用年数といえば恐らく税法上の耐用年数を思い浮かべる方がほとんどであろう。
税は公平に課されなければならないものだから、取得原価の費用配分である減価償却の手続きは一定の方法が決められている。減価償却の一つの要素である耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定められている。
一方、鑑定評価において求めるものは時価であり、現実に即したものでなければならない。したがって、耐用年数も対象物の実態に即して決定する必要がある。耐用年数(NUL)は新規に取得した資産が何年使えるかの見込であるが、精緻にその期間を決めるのは難しいため、先験的な見積が必要になってくる。また、評価対象となるものの使用場所や、使用する人の管理能力等によっても変わってくる場合がある。ここが評価人の見解になるところであるが、特に会計目的の評価の場合は根拠を求められることが多く、資料等の証憑によって実証が可能であればいいものの、そうでない場合は「評価人の勘です」などと理由付けするわけにもいかないので、非常に困難になってしまう。そのためかどうか定かではないのだが、ASAでは会員向けの通常耐用年数リストを作成してあり、これを参考に耐用年数を決定していくことが多い。 通常耐用年数のリストはこれまで2010年にまとめられたものを使ってきたが、数年前から再編集が始まっていて、この3月に、14年ぶりとなる新版2024年版が発表された。この時期は評価業務が多いため非常に多忙な中ではあるが、新しいリストと不咬合がないかチェックをする作業に追われた。 それでも、2010年にはなかった太陽光発電施設など、最近よく出会う新しい資産が追加されたことは非常に心強い。太陽光発電施設の耐用年数は信頼できるデータが乏しかったため、資源エネルギー庁の調達価格算定資料からデータを引っ張ってきたりしたが、実態に比べ短い年数とならざるを得ず、新リストでようやく実態に近い年数を根拠をもって設定できるようになったので喜ばしい限りである。 以前、このコラムで、物理的耐用年数、経済的耐用年数といった話題を取り上げたことがあった。機械設備評価の場合はコストアプローチの手順として、新規再調達コストを求め、そこから物理的劣化、機能的退化、経済的退化に相当する減価を計上する作業を行う。
物理的劣化を物理的耐用年数から求め、経済的退化を経済的耐用年数から求めるのかといえばそうではなく、耐用年数を使うのは物理的劣化において”経過年数/耐用年数分析”を行う場合のみである。
鑑定評価における経済的退化は、評価対象の価値を下げるような、評価対象を取り巻く外部的な要因、例えば規制の強化、市場における生産品の過剰供給による価格低下(=収益悪化)といったものが対象となる。これらは物理的劣化のように規則的に生じるものではないので、耐用年数からの分析には向いておらず、使用することはないのである。 では、物理的劣化を計算する時に考慮する耐用年数は、物理的耐用年数、経済的耐用年数のいずれであろうか。 前書きでは、「通常耐用年数 (NUL) は、経済的および会計上の耐用年数とは別のものです。」という解説があるものの、一方で、規制の変更、技術の陳腐化、大規模な再構築の影響など、NUL に定期的に影響を与える業界固有の要因を含んでいるという旨の解説もあり、実質的には経済的な要素も一部含まれていると考えた方が自然であるだろう。 価値を形成する要因は複数の要因が重層的に絡んできていることがほとんどで、この辺りを注意しないと、同じことを二度カウントしたりとか矛盾したことをやってしまったりするから気を付けなければならない。 リストがあるから便利、数字があるから使えると思って安易に飛びついてしまうと思わぬ落とし穴が待っているかもしれないから、よく確かめて意味を知っておかなければならない。
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