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Hideyasu Matsuura

プラスチックはなくなるのか?~プラスチック業界は衰退する?

更新日:2023年11月20日

SDG'sや地球環境の保護についての情報は日々いろいろと流れています。 温室効果ガスの削減、脱炭素、プラスチックごみの削減等々。 このような問題提起がやがて我々の日常生活にも影響してきて、最近では買い物した時に店頭でもらっていたビニール袋が有料になったり、ファストフード店やコーヒーショップでもらうストローが紙製になったりと目に見える変化も起こってきています。 プラスチックごみは海に流れ出して海洋生物の存在を危うくしたり、ひいては人体にも悪影響を与える恐れがあるとして使用削減が特に叫ばれています。 現実にプラスチック容器の削減などの動きは起こっていて、この調子でいくとプラスチックは早晩なくなるのではないか?あるいはプラスチック産業は衰退するのではないか?と疑問に思うことがあります。 果たしてプラスチックはなくなるのか?プラスチックの将来は暗いのでしょうか? プラスチック製造機械の評価のご依頼を受けることがあり、機械のことだけでなく、プラスチックにかかわる資料を収集していますが、結論からいえば、プラスチック削減の動きがプラスチック業界全体に大打撃を与えているかと言えば、全くそんなことはありません。 わかりやすい資料として、一般社団法人日本産業機械工業会プラスチック機械部会が発行している「プラスチック機械産業の市場調査報告書」を毎年入手しています。この報告書はプラスチックを製造するための射出成形機や押出機、ブロー成形機の市場環境について調査しており、分野ごとに今までの実績と今後の見通しについて記載されています。 この冊子を見ていて、昨年まで海洋プラスチック汚染の影響などについて積極的には触れられていませんでしたが、今年の報告書ではプラスチック製造機械への影響が明確に記載されるようになりました。 とはいえ、プラスチック産業が衰退する程の大きな影響はないと考えられています。

現状では脱プラスチックの影響は包装材や食品など一部の分野に限られていて、全般的には影響を受けてはいないこと、さらに根本的な問題としてプラスチックに変わるような素材が他にないことがあります。 プラスチック製品は今や、身の回りのありとあらゆるものに使われています。乗り物や家電製品、住宅建材、身につける化学繊維もプラスチックの一種ですし、マスクの不織布も化学繊維つまり樹脂からできたプラスチックの仲間です。 マスクが不足した際、布製のいわゆる”アベノマスク”が配られましたが、プラスチック製品を使い捨てにするのは怪しからん!として布製マスクが市民権を得たかと言えば、現実はそうではありませんでした。 買い物袋やストローなど目に見えるところで、プラスチックが他の素材の製品に置き換えられているのを目の当たりにすると、さも世の中全体がそんな動きになっているかのように思えますが、「金属の塊」と見られる旅客機なども現在では炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で機体が製造されるようになっておりました。航空機の場合軽量化が至上命題で、軽量化が温室効果ガス削減に寄与するため、金属よりプラスチックの方が好まれるようになっています。また、金属自体も既知の鉱山での採掘量が先細りで、鉱山における採掘が環境問題になっていたり、鉱山開発には長い年月を要することから新規の鉱山開発が進まず、供給不足になっている状況で、可能なものから金属からプラスチックへ素材が置き換わってきているのが現状です。 このように金属がプラスチックに、木材がプラスチックに転換している分野も存在していて、むしろ特に軽く、強く、頑丈な高機能プラスチックの需要は高まっている状況です。

炭素繊維素材を使用したボーイング787型機の外板(左)と従来からのアルミニウム素材の外板(右):ANA機体メンテナンスセンターで撮影し許可を得た写真を掲載
炭素繊維素材を使用したボーイング787型機の外板(左)と従来からのアルミニウム素材の外板(右)

表面的に見たもの聞いたものをそのまま鵜呑みにしてしまうと、正確さに欠ける判断になってしまう危険性があることを改めて思い知らされます。わかりやすく物事を「シロ」「クロ」で判断しがちですが、世の中の森羅万象はグラデーションどころか粒子単位で色があると言っても良いくらいで、全体を俯瞰した規模感の把握は非常に大切だと思います。 もちろん、プラスチック産業に関する見立てが、オーソライズされた機関が発表するものであっても状況を見誤っている可能性もあるかもしれません。 絶対的な真実を見抜くのは難しいですが、それに近づけるよう努力することは怠ってはいけません。SDG'sも17の目標が複雑に絡み合い、一つの目標を追えば他が犠牲になる面もあり突き詰めて考えると非常に難解なものです。 話を元に戻すと、少なくとも「プラスチック全廃」が全く現実的でないということは間違いなさそうです。

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