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Hideyasu Matsuura

鑑定と査定の違い

更新日:2022年7月14日

機械設備の評価についてあるところから講演のオファーを戴きましたので、その準備をしています。

実は評価について、こちらでコラムとして発表をしていますが、講演する機会はほとんどありませんでした。


一時は講演を売込んだりもしたのですが、興味を持って頂ける人はほとんどありませんでしたし、一般的な話でもないので「マニアックな話はいらない」と断られたりもしました。そんな状態ですので、あまり需要もないとみて、その後は特に売込みもせずにいました。


講演の話とはちょっとズレますが、こんなことがありました。 機械設備評価の世界に入って今年で11年になります。先日、お客様から「最初の頃はアメリカの資格だなんて言うと対外的にも信用されなかったけど、今は監査も受け入れてくれるのでASAの資格者の評価が必要になって来ましたよ」というお話しを頂きました。誠に有り難いことで、感謝すると共に感激でした。

基礎教育を受けていた頃、アメリカで機械設備の評価を広めた講師から「この評価が社会に受け入れられるまで15年かかった」というお話を聞いていましたし、「あと10年は我慢」と仰る方もいましたので、10年経ってようやくここまで来たかなという印象です。


講演のことに話を戻しますと、やはり皆さんの前でお話しするとなると、それなりに準備は必要になります。文献や資料に目を通しつつ準備をしていますと、いつの間にか忘れていたことにも気がついたりしました。


特に気をつけてなければならないのが、用語の意義や定義についてです。

世の中には法律やシステムなど数多のものが存在しますが、どれもある問題を解決するため、幸福な社会を築くために機能しています。

しかし、その存在意義や目的が違うが故に同じ用語でも時と場合によって、意味が異なることがあります。ですから、その意味の違いをしっかり把握しておかないと勘違いだったり、意思の疎通にずれが生じたりすることがあります。


鑑定と査定の違い

鑑定と査定の違いというのはなんとなく分かるようで、よく分からないところがあります。

「鑑定」というと、テレビ番組の「なんでも鑑定団」がいちばんお馴染みではないかと思います。


あの番組では、依頼者が"お宝"を持ってきて「鑑定士」が真贋を判定してプライスを出すというのがパターンになっています。ですので「鑑定は値段を出すこと!」と思う方が多いのではないかと思います。


ところが、実際のところはちょっと違うのです。

古美術の世界では、美術品の真贋を判定することを「鑑定」。値段を出すことを「査定」としっかり区別しているのです。鑑定実施するのは専門機関で、その専門機関は真贋の判定のみを行い、値段を出す「査定」は美術商の方々のお仕事....というのが実際です。

「なんでも鑑定団」はその辺を分かりやすくするためか、明確には区別していませんが、実物調査と値付けをやり、しかも「鑑定士」と名乗っているあたりは、不動産鑑定のイメージを拝借しているのではないか?と勘ぐりたくなります。


では「鑑定」と「査定」の違いは何か。

ここからは米国鑑定士協会(ASA)の評価人として述べていきます。

ASAの評価実務では「鑑定」と「査定」を分けるような明確な定義づけはないのですが、「価値」(Value)と「価格」(Price)の区別が明確には規定はないものの、実は"書かれざる共通認識"があります。

「価格」(Price)は現実の社会経済活動において提示された金額のことを言います。現実の社会では売手と買手によって取引が行われますが、お互いが「価格」を提示し、双方が合意すれば取引は成立します。つまり、事実として現実の社会活動で示されたものが「価格」です。

一方「価値」(Value)は評価人の出した意見のことを言います。

評価人は現実の社会で同じものがとの程度の価格で取引されているのか、新品の同じようなものと比較するとどのくらいの価格が適正なのか、また、それを使ったらどのくらい稼げるのかを踏まえて、「このくらいです!」と意見を述べます。これが「価値」です。

 

テレビを見ていますと「クルマ買います!査定無料」なんてCMを良く見ますし、「家を売るなら、まずは無料査定」なんてネット広告も目にされるかと思います。

要するにいくらで買うか、中古車業者、あるいは不動産業者が見積もって価格を提示するのが「査定」と見るのが妥当でしょう。 「鑑定」は評価人がその取引の当事者ではありませんし、取引の当事者であれば「査定」になりますから、取引に利害関係を有しない第3者の意見ということになります。現に「鑑定無料」なんていう中古車ディーラーや不動産会社はありません。


(注)実際には虫眼鏡を使うことはほとんどございません。
(注)実際には虫眼鏡を使うことはほとんどございません。

最後にまとめますと、

・実際に取引する人が取引を前提に対象物の「価格」を提示するのが「査定」

・評価の専門家が対象物の「価値」について意見を述べることが「鑑定」

ということになるでしょう。  

もちろん、分野も変われば定義も変わります。

あくまで、米国鑑定士協会の評価人の視点での意見ですので、ご参考になさって下さい。


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