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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

試算価格の重みづけ

更新日:2023年11月13日

弊会のTwitterはTweetをただ流しているようなもので、お世辞にも活用しているとはいえないものの、Tweetに「いいね」を付けて下さった方がいて、ちょっとタイムラインを拝見させて戴いた。 その中に、興味深いブログ記事のTweetがあった。   そのブログ記事というのが、このエントリである。 「複数の試算価格と鑑定評価額が乖離している鑑定評価書 」


10年前に気付いていた論点

この論点は、ちょうど10年前、米国鑑定士協会(ASA)の基礎講座の際にも出た話と同じである。不動産鑑定士の資格を持つ受講生から「試算価格の重み付けを行わないのか?」と米国人の講師に質問を投げかけたところ、米国人講師が「何故そんなことをするのか?」「売りに出ている物を買いに行って『これを貸したら価値が下がるから安くしろ』と値切るのか?」と逆に質問が投げかけられた。海外の評価人にはこの重み付けが理解しがたいものだと知って興味深かった。 不動産鑑定評価基準総論第8章第8節「試算価格又は試算賃料の調整」では

試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。
試算価格又は試算賃料の調整に当たっては、対象不動産の価格形成を論理的かつ実証的に説明できるようにすることが重要である。このため、鑑定評価の手順の各段階
について、客観的、批判的に再吟味し、その結果を踏まえた各試算価格又は各試算賃料が有する説得力の違いを適切に反映することによりこれを行うものとする。この場
合において、特に次の事項に留意すべきである。

とされていて、複数ある「試算価格」または「試算賃料」を調整することを求めている。

同じ評価でも似て非なる”作法”

 一方、ASA機械設備評価のPOV(評価原論)では、コストアプローチ、マーケットアプローチ、(ほとんど使われることはないが)インカムアプローチで求められた結論はそれぞれ「公正市場価値(FMV)」であり、いずれかのひとつが結論つまり最終的な公正市場価値となる。例えばコストアプローチによるFMVが1億円、マーケットアプローチによるFMVが1.2億円だとすると、結論としては評価の目的に則してもっとも適合性の高いどちらかの数字を採用することになり、「8:2で加重平均」などということはやらないのである。  そもそも、ASAの評価メソッドは各アプローチを適用して出てきた数字が最終的な結論になるわけだから「試算価格」といったような概念はないのである。

※そのほか「価値」と「価格」も捉え方が異なる。評価人の意見として出た数字が「価値」であり、事例や売希望、買希望価格など実際の市場で提示された事実としての数字が「価格」と捉えるのがASA評価人の"作法"であり、これらを混同すると評価人の能力を疑われるので注意する必要がある。

一般的には大きな問題はないが

 ブログ記事を拝読して、国内からもこのような視点が出てきたというのがある意味新鮮だった。  どちらの評価基準あるいは評価理論が優れているとか、メジャーであるなどと比較する気は全く無い。公正価値に対する考え方の違いだから、評価人が採用する評価基準に従って評価すれば良い。両者相乗りで不動産と動産(機械設備)の公正価値を同時に求める場合は多少問題は起こるかも知れないが、そうした話も今のところ聞かない。

 ただ、「試算価格」の重み付けをしているようなIVS準拠の機械設備評価を謳った評価書が幅を利かせ始めると少々困りものである。それが日本のスタンダードだという話になって、(仮に)「公正価値の重み付け」をしろと求められるようになると何の根拠を持って”重み付け”をしたらいいのか分からないからである。コストアプローチとマーケットアプローチが8:2と言っても、その比率の論拠が何かと突っ込まれると回答に窮してしまう。最終的には「私がこう考えたからこうなんだ」と恫喝して乗り切るか、追及してくる方が音を上げるまで粘り続けて出てきた数字を読み手に認めさせる、あるいはどこかでオーソライズドされた数字を出してもらって、それを機械的に当てはめてゆくことになるだろう。  説明が至難の業になってしまうことを求められるのは厳しい。論証可能で、しっかりと気を配って仕事をすれば説明が可能なことを求められるのであれば評価人サイドとして非常にありがたいのである。

 

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