先月末、三菱重工業が三菱スペースジェット(MSJ)の開発凍結を発表した。 三菱スペースジェットは三菱重工業の子会社三菱航空機が2008年に開発に着手した70-90席クラスの小型ジェット機で、最大航続距離は約3,300kmとされている。当初は三菱リージョナルジェット(MRJ)の名称であったが、2019年6月にMSJに名称を改めた。 当初の計画では量産初号機が2013年に納入される予定であったが、開発が難航し、2015年11月に初飛行したものの、現在まで型式証明(Type certificate:TC)が取得できない状態で、先月末に開発凍結が発表された。 TCが取得できない状態では旅客機としては未完成である。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による航空需要の減退が理由に挙げられているが、世界中の航空会社が設備投資を先送りする環境は開発が遅れているMSJにとってはむしろ追い風と考えることもできそうだが、開発凍結という選択をしたのにはそれ以外の理由もあることは間違いないだろう。 ネットでもMSJについては様々な推測がなされている。航空需要回復後に再び開発という見方もあるが、事実上の開発撤退という見方が強い。 MRJの開発当時は当時の最新技術をひっさげてリージョナルジェットの世界に参入とも言われていたが、7年以上の遅れが出れば最新技術も普通の技術になってしまう。例えば、技術的な目玉としてGTFエンジン(ギヤードターボファンエンジン)が挙げられていた。GTFエンジンギアによって回転速度をコントロールする機構を持ったエンジンである。現在主流となっているターボファンエンジンはあたかもプロペラ機のプロペラの役割を果たす高圧タービンと空気を圧縮させ燃料を燃焼させる高圧タービンで交際されている。性質の違う低圧タービンと高圧タービンの性能を最適にするためには両者の回転速度を最適化させる必要があり、それを可能にしたのがGTFエンジンである。機構として複雑であるため軽量化などの課題も多かったが、現在ではエアバスA320のneo(New Engine Option)シリーズにも搭載されている。A320neoは2016年に登場している。またMSJと同クラスのリージョナル機でも採用がされており、MSJが2025年頃に登場したとしても技術的なアドバンテージはないだろう。 そう考えると、この段階での開発凍結は開発の断念と同義とする見方が妥当ではないかと思われる。 開発遅延についても様々な推察があるが、チームビルディングの失敗を挙げる見解が複数みられる。真偽の程は定かではないが、高い技術を持ちながらその統合に失敗したというのであれば非常に残念なことだ。 同じ日本企業でもビジネスジェットで自動車メーカーのホンダが「ホンダジェット」の開発を成功させている。両者について興味深い記事があったので紹介しておく。 三菱重工、「無謬性経営」が招いたスペースジェット挫折 (日経ビジネス) https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00155/110200013/?n_cid=nbponb_twbn
先日もこちらの記事で「相手の話を聞ききること(最後まで話を聞く)」が大切であると紹介したが、皮肉にもそのままの内容で驚きである。相手の話を聞けばジェット機が作れるわけではないが、どんなに経験を積んでも唯我独尊にならないよう肝に銘じたいものである。 翼をよみがえらせることは難しいのか、それほど難しくないのか。それはわからない。
Comments