「日本はものづくり大国である」という言い回しを良く耳にする。
確かに、一時期より陰りは見えているものの優秀な工業製品を作る能力は依然として持ち合わせていると思う。
以前、静岡県の事業レビューに携わった時、「一流のものづくりともの使い」という目標が掲げられていた。それに関連する事業はどれも「ものづくり」に関するものばかり。ここで疑問が湧く「もの使い」って一体何だろうか。工作機械を駆使して革新的な製品を作ることなのか?と思ったのだが、それは一見「もの使い」のように見えるが「ものづくり」の範疇の話である。
そこで実際の議論の場で県の担当者に「もの使い」とは何か質問をしてみた。
が、良く分からない答えではぐらかされたような形になってしまった。要は行政の担当者も概念で重要性は分かっているけれど、具体的になんなのかは良く分かっていなくて、タイトルにとりあえずは盛り込んでおいたのかなと私なりに解釈した(外れていたら失礼であるが)。
数日前にSDG'sに関する書籍を見つけ、一読してみたが、ある住宅メーカーの取り組みが紹介されていた。主に温室効果ガス排出や再生エネルギーの話であったが、特に日本の住宅に関していちばん問題なのは住宅の供給過剰である。空き家問題は待ったなしで深刻であり、放っておけば家屋の火災や倒壊による死傷事故の発生、治安の悪化、景観の悪化などにより周囲の環境にも悪影響を与える。むしろそちらに取り組んで欲しいところだが、環境に優しい製品やニュータウンをつくることが具体的な取り組みになってしまっていて、既存の街や住宅の持続可能性はどうなるのかという点が見えてこない。
問題なのは、ものづくりの観点に偏った目標になると、小手先のSDG'sになってしまう危険性があることではなかろうか。やはり「もの使い」の観点もないと、 「誰一人取り残さない-No one will be left behind」 というアジェンダから逸脱してしまう。 企業も社会の一員であり、雇用という最大の課題に貢献している点を考えれば、企業の持続も考えなければならないが、企業が生き残るために外部不経済を被る人が出てくるのも問題である。 マクロ的すぎてバランスを取ることがなかなか難しいと思われるが、SDG’sを深く考える上で避けて通れない話なのではないか。
フロンティア資産評価研究会 松浦 英泰
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