昨年から相続税の課税が強化され、基礎控除が大幅に縮小になったことから相続税対策が重視されるようになっている。
基本的に動産の時価評価の出番はあまりない。
何故か?
税体系は誰でも分かりやすいものである必要があるため、国税庁が財産評価基本通達を出している。
動産の評価は、取得価額に減価補正を行うことになるが、その際に用いる耐用年数は資産ごとに決められている。しかも、その耐用年数は一般的な物理的、経済的な耐用年数より短く設定されているため、価値が下がるペースが速くなる。課税の基礎となる評価額が安ければ税額が下がるのは一般的であるから、時間とコストをかけてわざわざ評価価値が高くなる公正な時価を求める人はいないだろう。
そもそも、個人で費用をかけて評価書を取るほどの多額の資産を持っている人は少ない。
しかし、評価が分かりにくいものがある。そのひとつが庭園設備である。
一般的な家庭の庭なら課税対象になることはないが、少々広めで、池や灯籠、築山や立派な庭木があるような場合は申告が必要となる。
評価は、造園業の方の意見を聴取すれば足りるのであるが、より信頼性を高めるためには専門職の評価書を添付したいというご意向があり、評価を行うことになった。
庭園の場合、難しいのは①そもそもどこまでが庭園の資産なのか、②どういう状態の価値をみればいいのかという点である。
庭というのは土地に付着している付合物であるから不動産の一部といえる。しかしながら、審美的な要素が重視されたり、構成要素に不動産本体とは異なる特殊な市場がある考えられることから、土地、建物とは分けて考える必要がある構成要素である。
したがって、どこまでを評価の範囲とするかが難しい。これは社会通念の感覚としか言いようがない。
庭木にしても立派なゴヨウマツは価値があるかもしれないが、鳥のフンから自然に生えてきた雑柑は評価に含めるべきか、手間とコスト、情報の入手しやすさを考えれば良いだろう。
また、どういう状態の価値を見るべきかという問題もある。
財産評価基本通達92-3によれば
庭園設備(庭木、庭石、あずまや、庭池等をいう。)の価額は、その庭園設備の調達価額(課税時期においてその財産をその財産の現況により取得する場合の価額をいう。以下同じ。)の100分の70に相当する価額によって評価する。
とされている。
「庭園設備の調達価額」という文言をみると、つい短絡的に新規再調達コスト(再調達原価)ではないかと思ってしまいがちである。
言い替えれば、新規の再調達コストを求めて、減価補正として一律100分の70を乗じて評価額とすると解釈しうる。
しかし、よく読むと括弧書きで「課税時期においてその財産をその財産の現況により取得する場合の価額をいう。」と付記されている。
"その財産をその財産の現況"ということは素直に解釈すれば、新品を調達するコストではなく評価時点(相続発生日)の状態を前提にした価値を把握することと考えられる。
このあたりは実際に税務署に相談に行き、担当の方の話を聞いてから読み直したらスッと腑に落ちたところである。
仮に穴が空いて干上がってしまった池があればその状態を所与として考えればいい。
つまり、評価書を書く場合に選択すべき価値は「Fair market value—installed/公正市場価値-設置」となる。
最終的な課税標準額はその100分の70ということになるが、評価士としては「庭園設備の調達価額」である「設置済資産の公正市場価値」を求めるまでを業務の範囲とすればよいだろう。
普段はプラントや機械類が評価対象であるが、庭石や樹木などどうしたらよいか大いに迷った。
しかし、優秀な造園業者の方の水先案内があったお陰で、なんとか評価書に持って行くことができた。
改めて、ご協力をいただいた皆様に感謝申し上げたい。
【おことわり】
税務申告や納税に関する相談については専門外となります。税理士の有資格者にご相談下さい。
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